北京オリンピック(2)
男子100mは衝撃的でした。同じジャマイカのパウエルが前評判や準決勝までの走りと打って変わって決勝で硬くなってしまうこともあり、ボルトが100mで世界の一線級と同じレースで本当に真価を発揮できるのか、まだ誰にもわからないことでした。
しかし結果は9秒69の世界新で圧勝。100mで2位を0.20秒も離すというのは圧倒的な力の差がなければ不可能です。しかもゴール直前はもうレースの走りではありません。異次元の走りとはまさにこのことでした。
ボルトの走りはここ最近世界の主流とされてきた走りと異なります。近年の100mは、膝を伸ばし切らず曲げ切らず、大腿と下腿の角度をあまり変えずにスイングすること、重心の近くに着地し、着地時には反対脚の膝が重心の前に出るくらい素早く引き寄せること、そのためには地面を引っ掻くのではなく、プッシュするイメージで、キック脚は膝を伸ばさないというのが特徴です。原点はカールルイスにあり、モーリス・グリーンあたりで完全に確立され、現在のトップスプリンターの多くはこの走りです。
しかし、ボルトは着地時には膝が比較的伸びており、キック時は膝は伸びきっていないものの、キック後は膝を完全に折りたたんでいます。速く走るための合理的な走法なのか、196cmという長身だからなのかはわかりませんが、これまでと異なる走法と言えます。あまりに脚が長いため、スイング時の慣性モーメントを減らすために膝を折りたたむ必要があるのかもしれません。
「本職」の200mは一体どういう走りを見せるのか、最も破るのが難しい記録の一つであるマイケル・ジョンソンの19秒32を破ってしまうのか。注目です。