男女長距離の5000m、10000mはそれぞれ圧倒的な強さを持った2選手が2冠達成。
男女とも競技順は10000mが先。男子は入りの1000mこそスローだったものの、エリトリアのタデッセが前に出てからは展開が一転、ハイペースとなりました。かと思えば中盤は中だるみ。3000mを8分09秒で通過したのに5000mは13分48秒とペースダウン。このまま8000mあたりまで行ってしまうかと思ったら今度は何とゲブルセラシエが引っ張るという予想外の展開。この後は細かい上げ下げはあるものの、2分40秒前後のハイペースで推移、これではさすがのケネニサ・ベケレも爆発的なスパートは難しいかと思いましたが、この人には全く関係ないようでした。ラスト1000mが2分27秒、ラスト400mは53秒台でカバーし、27分01秒17の五輪新。蒸し暑い東アジアの夏とは思えない記録です。ゲブルセラシエはさすがに最後のスパート合戦で勝負するスプリント力はなくなったか、6位に終わりましたが、それでも27分06秒68。
続く5000mは予選が10000mの3日後、決勝がさらに3日後。このレースも最初はスローで1000mを2分45秒で入りましたが、10000mと違ってエチオピア勢が終始ペースをつくりました。2000mまではベケレ弟が引っ張りましたが、意外にもその後はベケレ兄が自らペースをつくり、徐々にペースアップ。あまりスローだとラガトなどキック力のある選手が怖いと見たのでしょうか。3000mを8分00秒で通過したときは、まさか12分台が出るとは思いませんでしたが、次の1000mを2分32秒、ラスト1000mは2分25秒でした。今度は早めの仕掛けでラストのスプリント勝負ではなかったのですが、それでもラスト1周は53秒台。2着のキプチョゲ(ケニア)を5秒も離す圧勝でした。8位が13分23秒もかかっていることを考えると条件的には悪かったと思いますが、それほど今のベケレの力が他を圧倒しているということでしょう。
女子の方では、10000mは見ごたえがありました。5000mの通過15分09秒もまずまずのハイペースですが、7000mの手前でアベイレゲッセ(トルコ)が一気にペースアップ。7000mから8000mの1000mを2分55秒、次の1000mも2分56秒と頑張ります。これに着いていったのはT.ディババのみ。ややペースが鈍って残り1周でディババが満を持してスパート。しかしここであっさり勝負がつかなかったところがアベイレゲッセの成長ぶりを示します。じわじわと離されるものの、一気には離れません。このハイペースの中、ディババがラスト1周を60秒でカバーしたのもすごいことですが、アベイレゲッセも1秒68しか遅れずにゴール。ディババは29分54秒66の世界歴代2位、アベイレゲッセも29分56秒34と今まで15年前に王軍霞しか出したことのない29分台を2人同時にマークしました。王軍霞はラスト3000mが8分17秒という異常なペースであったことを考えると、この2人も実質世界新と言っても過言ではないと思います。
5000mはT.ディババの最大のライバル、デファーがいるのでそう簡単には2冠達成はできなかったはずですが、デファーはどうも不調のようでした。レースは入りの1000mが3分39秒というジョギングペース。その後も3分06秒、3分13秒、3分06秒と10000mよりもずっと遅い展開。ラストでディババとデファーのスプリント勝負と思いきや、デファーは勝負に持ち込む前に後退してしまいます。代わりに踏ん張ったのはまたもアベイレゲッセ。今回もディババに1秒34しか遅れず、アベイレゲッセの意外なスプリント力に目を見張りました。ディババの記録は15分41秒40と非常に遅いタイムですが、ラスト1000mは2分36秒63。ディババがもし1500mを走れば4分は確実に切るでしょう。
男子3000mSCは圧倒的な力を持っていたシャヒーン(カタール)がここしばらくは故障に悩み、今回も出場できず混戦。ケニアの1,2,3位独占も想定されました。優勝はケニアのキプルトが勝ち取りましたが、2位はフランスのベナバードという選手が8分10秒49で入りました。昨年までは8分14秒22の選手で、今季も五輪前は世界20位にも入っていないので大穴でした。しかし五輪後はその勢いでチューリヒ国際にて8分08秒95と更に自己記録を伸ばしています。身長は公称で152cmとなっていますが、その身長でよく障害を跳べるものです。
女子は昨年の世界選手権では実力を発揮できず7位に終わったサミトワ・ガルキナ(ロシア)が、今回は圧倒的な力で最初から先頭を引っ張り、最後は2位以下を大きく引き離してついに9分の壁を破り、8分58秒81の世界新。走力、ハードリング技術とも文句なしでした。しかしケニアのジェプコリルが9分07秒41で2着に入り、アフリカ勢が本格的に参戦してくればやはり圧倒的な強さを発揮するような予感をさせるレースでした。