一部の大会では、参加資格として標準記録が設けられていて、公認記録が条件である場合があります。この「公認記録」に関しては、ランナーの間でもかなりの誤解が見られます。公認記録について正しく認識しておかないと、せっかく目標としていた大会に出られると思ったのにぬか喜び、なんてことになってしまいますので、以下にポイントをまとめてみます。


1.公認記録の条件

公認記録の条件は、大まかに言うと次のとおりです。

(1)公認競技場(公認コース)で実施していること。
公認コースとは、正確には「(財)日本陸上競技連盟公認競走路」といいます。公認コースでなければ公認記録にはならないというのは、ある程度ランニング歴のある方なら承知していることでしょう。

公認コースの距離の計測は、日本では巻尺を用いることが多いようです。50mの巻尺の所々に、巻尺と垂直に長さ1mの棒が付けられ、足が片側しかないムカデのような形の特殊なものを使用します。もちろん最短距離を計測するのですが、カーブなどでは道路の端から1mの所を計測するという条件があるので、1mの棒が据え付けられているのです。

この他、IAAF(International Association of Athletic Federation:国際陸上競技連盟)やAIMS(Association of International Marathons and Road Races:国際マラソン・ロードレース協会)では自転車による計測を行っていますが、日本ではあまり行われないようです。精密な検定を行った計測専用の自転車を使用します。よく海外のレースで道路に青い線が引かれているのを見かけますが、これは自転車で距離を計測する時のガイドラインです。

また、マラソンといえば42.195kmというのは誰でも知っていますが、距離の測定には誤差がつきもので、1mたりとも誤差があってはならないというわけではありません。誤差の許容範囲は+千分の1まで、つまり0m〜+42.195mです。短い距離は1mでも認められませんが、長い分には約42mまで認められるので、最長42.237kmまでが公認というわけです。

(2)公認大会(公認競技会)であること。
誤解の原因は「公認大会(公認競技会)」と「公認コース」というよく似た用語の違いを認識していない場合がほとんどです。

公認大会とは、公認競技場を使用していることは当然ながら、日本陸連あるいは都道府県陸協(またはその傘下の地区陸協)、など(表1参照)が主催または主管し、公認審判員が競技審判を行っていることが条件となります。

【表1】公認競技会開催可能団体
団体名備考
日本陸上競技連盟
地域陸上競技協会(陸協)例:東海陸協、九州陸協
都道府県陸上競技協会(陸協)傘下の地区陸協を含むが、市区町村の陸協は除く
日本実業団陸上競技連合その傘下組織を含む
日本学生陸上競技連合(学連)その参加組織(例:関東学連)を含む
全国高等学校体育連盟陸上競技部(高体連)その参加組織を含む
全国高等学校体育連盟定通制陸上競技部その参加組織を含む
日本中学校体育連盟陸上競技部(中体連)その参加組織を含む

なお、公認大会は事前に陸連に申請する必要があり、大会終了後には「陸上競技マガジン記録室(略して陸マガ記録室)」に結果を報告することで公認が成立します。参加者に落ち度は全くないのですが、残念ながらこの結果の報告を失念しているケースは少なからずあるようです。

陸上競技マガジンは「ベースボールマガジン社」の発行する雑誌ですが、日本陸連の機関紙としての役割を担っていることから、同紙が公認記録のとりまとめを代行しています。

(3)参加者全員が陸連登記登録者であること。
公認記録を取得したい本人が陸連に登記登録してあることが必要です。陸連登録は記録による制限などはなく、誰でも登記登録することができます。登記登録は年度毎に行い、登記の場合年間3千円程度の登記料が必要です。

【注】登記とは、都道府県陸協を通じ、個人で陸連に登記する方法です。この場合、所属名は各都道府県陸協名となります。登録とは、会社やクラブチームなど、10名以上のチームを構成し、都道府県陸協を通じて陸連に登録することを言います。この場合、所属名は各チーム名となります。都道府県陸協の連絡先は、日本陸連ホームページ内に記載されています。

ところで、「参加者全員」とありますが、公認大会なのに未登録者も出場できる大会があります。これは、要項をよく見ると「陸連登記登録者の部」と「一般の部」に分かれています。これにより、参加者全員が登記登録者である公認大会と、未登録者も混じっている非公認大会が同時に開催されていると解釈できます。


2.公認大会の見分け方

(1)大会要項やプログラムを見る
大会の申し込みをする際には大会要項を取り寄せることが多いと思いますが、主催または主管の中に、都道府県陸協名(またはその傘下の地区陸協名)が記載されていない大会はまず公認大会ではないと考えられます。傘下の地区陸協とは、例えば静岡陸協なら「中部支部」「西部支部」などいくつかの地区陸協があります。「後援」のところにしか陸協名の記載がない大会は公認大会ではありません。

間違えやすいのは、市町村陸協が主催している場合です。この場合も市町村陸協は、どちらかというと陸連登録の際のチーム登録に近い位置付けであり、あくまで都道府県陸協等が主催、主管していなければ公認大会にはなりません。

(2)申込書を見る
公認大会は、たいてい「陸連登記登録者の部」があり、「所属陸協名」および「登記登録番号」の記入欄があります。これらを記入する欄がなければ公認大会ではないと考えられます。ただし、これらの欄があれば必ず公認大会というわけでもありません。また、公認大会に出場する登記登録者であっても、登記登録者の部に申し込まなければ公認記録にはなりません。

補足になりますが、公認大会といっても全ての種目が公認レースではない場合もあるので注意が必要です。この場合も、種目ごとに登記登録者の部と一般の部に分かれているか、ということに注意してください。

例外的に、茨城県で開催される「かすみがうらマラソン」、長野県で開催される「長野マラソン」などがあります。かすみがうらマラソンは、35歳以上の陸連登録者は一般の部に申し込むことと記載されています。では35歳以上の登記登録者は公認記録を取得できないかというとそうではなく、事後に茨城陸協に申請すれば公認記録証を発行してくれるようです。また、35歳以上でもどうしても登記登録者の部で申し込みたいということであれば、それも可のようです。長野マラソンは、未登録の競技者は「一時登録」という形で参加する形態になっており、すべての参加者が登記登録者という条件を満たします。

(3)日本陸連のホームページを見る
公認競技会は、日本陸連ホームページの「大会情報」に掲載されています(ただし全てを網羅しているわけではありません)。公認競技会は事前申請が必要であると前述しましたが、これにより日本陸連では公認競技会が把握でき、このようにホームページへの掲載が可能となっています。第1回目の大会ならともかく、毎年開催されているのにこのページに掲載されていない大会は、非公認である可能性が高いです。

(4)陸上競技マガジン記録集計号を見る
毎年3月頃に発行される「陸上競技マガジン記録集計号」に世界、日本、高校、中学などの前年のランキングと歴代ランキングが掲載されています。この冊子には、前年の公認競技会リストが掲載されています。記録の公認には陸上競技マガジン記録室に報告が必要と前述しましたが、このリストには、公認記録の報告があった大会が全て掲載されています。したがって、公認大会だったのかどうかというのは、事後になりますがこれで確認できます。公認大会とうたっていたにも関わらずこのリストに掲載されていない場合は、報告漏れで未公認となっているケースと考えられます。実際こうした大会が少なくないのが現実です。

前年も開催されている大会なら、このリストに掲載されていればまず今年も公認であろうと推測はできます。


3.トラック種目の公認記録

トラック競技についてもロードレースと考え方は同じですが、いくつか留意点があります。

(1)公認競技場かどうか
陸上競技場はすべて公認競技場というわけではありません。特に1周400mの全天候型の競技場であれば公認競技場に思えますが、土のトラックや1周400mでないトラックでも公認競技場はありますし、全天候型でも公認競技場でないトラックはあります。

(2)主催者は誰か
トラック競技でも都道府県陸協などが主催・主管しているのが条件というのは同じです。時々「新日本スポーツ連盟(新体連)」主催の陸上競技大会や記録会というのがありますが、これは公認大会ではありません。市町村の競技会なども公認大会とは限りません。トラックの公認競技会も日本陸連のホームページや陸上競技マガジン記録集計号には掲載されます。

(3)記録が発表されたか
競技終了後に通告員が記録を発表するか、大きな競技場なら電光掲示板に記録を表示したり、あるいは競技場内外の掲示板のようなところに記録が張り出されていることがありますが、ここから名前が漏れている場合は、記録が計測されていませんので、公認記録とはなりません。最近は電気計時が主流になったので全ての競技者の記録が計測されることも多くなりましたが、手動計時の場合は上位何名かしか計測しないこともよくあります。

なお、電気計時だからといって必ず公認記録になるというわけではありません。もちろん記録の正確さは疑うところはありませんが、あくまで公認競技会でなければ公認記録とはなりません。一番紛らわしいケースは、手動計時なのに100分の1秒単位まで記録を発表する場合です。手動計時は、仮にストップウォッチが100分の1秒まで表示できても、最後の1桁は切り上げて10分の1秒単位で発表しなければならないからです。ちなみにロードレースの場合は、小数点以下は切り上げて1秒単位にします。

(4)公認記録証の発行
選手権大会など、順位表彰のある競技会で入賞し、賞状をもらわない限りは公認記録として証明できるものはありません。レース終了後に大会事務局に連絡して公認記録証の発行を依頼する必要があります。記録証の発行は有料となる場合もあります。ただし、100傑入りするような好記録でないと、かなり面倒がられるのは覚悟しておきましょう。


4.公認記録が必要なロードレース

日本陸連主催の、いわゆるエリートマラソンと呼ばれる大会のほか、一部の公認大会にはタイムによる参加資格(標準記録)が設けられている大会があります(表2)が、これらのほとんどは過去1年または2年以内に出した「公認記録に限る」としています。これらの大会の多くは、申込書に参加資格となる公認記録証を添付するよう記載されています。また、陸マガ記録室の当該ページのコピーでも可としている大会もあります(例外として、北海道マラソンは標準記録がありますが、非公認の記録でもよいとしています)。

記録の正確さから言えば、公認コースであれば公認大会か否かはそれほど問題とはなりませんが、それでもなお公認記録が必要となる場合があるのは、これら一部の大会における参加標準記録の存在があるからです。

【表2】主要ロードレースの参加資格(2001年度大会要項より)
A.男子
大会名5000m10000m20kmハーフ30kmマラソン
福岡国際1時間07分1時間35分2時間26分
東京国際1時間10分1時間42分2時間30分
びわ湖毎日31分1時間05分1時間10分1時間40分2時間30分
別大毎日31分1時間09分1時間40分2時間40分
防府読売1時間13分1時間17分1時間57分3時間00分
熊日30km16分33分
札幌国際ハーフ33分1時間14分1時間18分2時間40分
仙台ハーフ40分1時間30分1時間35分 間15分

B.女子
大会名5000m10000m20kmハーフ30kmマラソン
東京国際女子35分1時間25分1時間30分2時間13分3時間15分
大阪国際女子37分1時間25分1時間30分2時間13分3時間15分
名古屋国際女子38分1時間25分1時間30分2時間13分3時間15分
札幌国際ハーフ37分1時間28分1時間32分3時間10分
仙台ハーフ45分1時間35分1時間40分


5.都道府県陸協の承認

公認大会の申し込みに際し、「所属都道府県陸協の承認」を必要とする大会もあります。承認といっても申込書に都道府県陸協の署名・捺印をしてもらうだけですが、郵送でやり取りしたり、これが結構面倒な手続きです。また、陸協によってこの「承認」の認識がかなり異なります。特に(表2)のような大会では、参加資格記録を含めて厳正にチェックする陸協もあれば、登記登録者であることを確認するだけ(記録のチェックは陸協の仕事ではなく、大会事務局がやるという考え)の陸協もあります。(表3)にいくつかの陸協のケースを紹介します。

【表3】都道府県陸協の承認方法の例
都道府県陸協承認方法など
神奈川承認印は有料(1件500円。ただし前年度国体や青東駅伝の代表選手は無料)
静岡登記登録者であることを確認するのみ
大阪大会名と日付が空白の出場承認証をまとめてもらえる

なお、陸協承認のやり取りは郵送で行うことが多いと思いますが、各陸協の事務局は個人宅や職場(学校など)となっている場合が多いので、くれぐれも日数の余裕を持って行いましょう。


6.海外での公認記録

海外のロードレースはもちろん日本陸連の公認大会ではありませんが、一定の条件の下に公認記録の対象となります。

(1)IAAFまたはAIMSが公認している大会であること
ベルリン、ロンドン、ロッテルダム、ボストン、ニューヨークシティ、シカゴといった著名なマラソンはほとんどこれに該当します。ホノルルマラソンも公認です。日本では河口湖マラソン、尼崎シティ国際ハーフマラソンなどがAIMS公認大会です。

(2)エントリー後に日本陸連に申請すること
所属陸協経由で日本陸連にアマチュア証明書の発行を依頼します。ただし、陸協によっては不慣れなため、直接日本陸連に申請しなければならないこともあるようです。日本陸連はアマチュア証明書を発行後、原本を陸協経由で本人に交付するとともに、当該マラソン開催国の陸連または主催者に通知します。

(3)記録証明書を発行してもらうこと
主催者から記録証明書を発行してもらう際、アマチュア証明書の提示を求められることがあるので、アマチュア証明書は大会に持参します。記録は主催者から日本陸連に通知されていると思いますが、念のため発行された記録証明書の写しを陸マガ記録室に送付した方がいいようです。

ところで、アマチュア証明については、IAAFがアマチュアの表現を削除した(以前は International Amateur Athletic Federation だった)ことから、英文では「有資格者証明」という表記に変わっていますが、日本語ではアマチュア証明のままとなっています。また、上記手続きもルールとしては残っていますが、実態は形骸化しているようです。「日本陸上競技連盟強化委員会」に「いつ、どの大会に、どこの所属の誰が」出場するのか連絡し、記録証を受け取った後に同委員会に報告すれば事足りるようです。